これからの平和教育で育てる力として、平和な社会を形成する活動について、想像力と創造力を用いて考える思考力・判断力・表現力等を、育成していきたいと思います。平和形成の主体を育てる平和教育では、子どもたちが戦争などの平和問題を多面的・多角的に理解し、批判的に思考・判断できる力と、将来の市民として社会に参加する力を育てることが大切です。

　ただし、戦争への怒り（正義感）や戦争被害者への共感的理解が、小学生から中学生に上がる過程で低下傾向が見られました*1。その原因の一つとして、ヒロシマやオキナワについての平和教育が、小中高校生の成長と発達をあまり考慮せず、平和教育の方法がマンネリ化や形骸化している、との指摘もあります*2。学年の上昇による子どもの発達（知識・技能の積み重ねや、思考力・判断力・表現力の発達）に対し、平和教育の内容と方法が充分に対応しきれていないといえます。平和教育で同じ内容・方法を繰り返さないためには、子どもの発達段階に応じて、学習目標が順次高度化する平和教育カリキュラムを開発することが課題になっています。

2)平和教育の学習目標

　参照：表３　広島市と長崎市における平和教育の学習目標

　表４では、『広島市立学校　平和教育プログラム指導書』と『平和教育手引き書』を参考にして、平和教育の学習目標を、戦争に関わる学習と、平和形成に関わる学習の観点からまとめました。

　参照：表４　発達段階別に見た平和教育における学習目標（例示）

　表4は、平和教育の実践をめざす学生や教師に向けて、平和教育における学習目標例を整理したものです*5。表４から表７は、平和教育のカリキュラム案の作成や、平和教育の学習目標（めあて）を考える参考とすることができます。同時に、学習目標を到達目標とみなし、子どもたちの学習成果が、授業の学習目標に到達しているかをチェックし、教師による実践での指導を振り返る評価方法にすることができます。

【平和教育実践を評価する方法】 質問紙への回答／意識調査／知識理解度のテスト／感想文の分析／作品の制作／プレゼンテーション／子ども・大人へのインタビュー／（教師、両親、研究者による）子どもの観察／平和に関連する公の統計（例えば、犯罪率；多国籍・民族間の結婚の割合）

平和学習の評価

　新学習指導要領に従えば、平和教育の学習目標において、まず学びに向かう力が学習の中心としてあり、それを元に知識･技能および思考力・判断力・表現力といった学力構造を想定することができます。

　それでは、平和学習の成果をどの様に評価すれば良いのでしょうか。学習目標によって評価方法も異なってきます。平和教育において、①目標が平和を志向する意欲や態度の形成であれば、従来の感想文や作文を用いて評価するのが適しています。②目標が表現力の育成であれば、子どもの活動（パーフォーマンスやプレゼンテーション）を評価するのが適しているといえます*6。そうした二つのタイプの評価方法を下にまとめます。

　①感想文や作文による評価：　平和についての特定の題材について感想文や作文（レポートなど）を子どもに書かせ、それを評価します。子どもに感想・作文を書かせる評価方法は、現在まで学校で多く用いられてきました。平和教育実践による子どもの変化を評価するためには、実践の事前に子どもが書いた作文と、事後に子どもが書いた作文を比較することができます。
　②活動（パーフォーマンス・プレゼンテーション）の評価：　子どもたちが平和を題材に活動を行う場合、子どもはそれまでに学んだことを総合して表現することが求められます。平和教育の活動において、学習成果を評価するための「課題」にはどのようなものがよいといえるでしょうか。

　平和教育では、活動型評価も有用と思われます。活動型の発表や発信には、子どもによるポスターや絵、詩や短歌や俳句、歌や動画、子どもが作ったパンフレットがあります。
　一方で、共同作業も大切で、みんなで協力して行う演劇、美術作品の制作、合唱曲など音楽の発表、ダンスや組み体操などがあります。

発信の方法
　平和主体を育てる平和教育では、子どもたちが平和問題を多面的・多角的に理解し、批判的に思考・判断できる力を持って、市民として平和な社会の形成に主体的に参画する力を育てることが大切です。その意味で、平和な社会形成のために多面的に考察し自分なりに提案し、それらを発信する力を育成することは、平和教育実践において重要な学習目標となります。

　平和学習の中で発信する対象として、学校内部での発信と、外部に向けての発信の両方があります。学校内部での発信方法として、作品や新聞を作って学校内で展示する、学校の中で下級生に対する発表会で説明（プレゼン）することがありますプレゼン）*7。平和問題についてSNSやHPを用いての発信は、子どもたちにとっては社会参加の良い経験となります。しかし、場合によっては周りの人々から政治的すぎると捉えられることがあります。特に、学校外部へ発信を行う場合は、発信内容や方法を充分吟味して選択する必要があります。学校外部との無用な軋轢を避けるためには、充分な教育的配慮と事前の準備が必要といえます。その上で、子どもたちが平和な社会の形成に役立っていると実感できることが大切となります。