7.参考になる文献の紹介 |
■文献選定の視点(村上登司文)
戦後80年あまりが経つ中でも、過去の戦争体験を継承し、それを伝承する平和教育はまだ大切です。戦争を知らない教師が平和教育をするには、戦争のことをよく知り、平和形成者を育てる教育に結びつける必要があります。戦争の実情に学び、戦争を多面的に見る力を養い、今の平和の問題に対応できる子どもたちに育成することに役立ちそうな文献を選びました。興味・関心がある文献をどれからでもお読みください。(発行順)
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戦後80年あまりが経つ中でも、過去の戦争体験を継承し、それを伝承する平和教育はまだ大切です。戦争を知らない教師が平和教育をするには、戦争のことをよく知り、平和形成者を育てる教育に結びつける必要があります。戦争の実情に学び、戦争を多面的に見る力を養い、今の平和の問題に対応できる子どもたちに育成することに役立ちそうな文献を選びました。興味・関心がある文献をどれからでもお読みください。(発行順) | |
○水木しげる『総員玉砕せよ!』講談社文庫、1995 (漫画 小学校高学年以上) |
戦場を体験した漫画家の水木しげるが描いた戦記物シリーズの一つです。太平洋戦争末期の1944年に、500名の日本軍部隊が南太平洋のパプアニューギニアそばのニューブリテン島の守備に就いて500名全員が玉砕(全滅)するまでが描かれます。のんびりとした南国の島を舞台に、米軍との戦闘、空襲や地上戦による殺戮と破壊が描かれます。前線で日本軍が兵を粗末に扱う様子が生々しく描かれています。マンガ故に戦場の様子と悲しさがリアルに伝わってきます。水木氏は2015年に93歳で亡くなりました。 |
○竹内久顕編著 『平和教育を問い直す』法律文化社、2011 |
平和教育における4つの乖離を指摘しています。過去の戦争を多く教えるが今の戦争を考えるのにあまり役に立てない乖離、遠くの戦争の暴力を学ぶが身近な暴力への対処がない乖離、平和の創造について理念を述べるが現実を変える難しさとの乖離、反戦平和を願う教育方法と平和を創る方法を教える方法の乖離です。現在の平和教育への課題を明らかにし、それへの取組みを考えるのに役立ちます。 |
○藤原帰一 『戦争の条件』集英社新書、2013 |
戦争はどのような状況で起こるのでしょうか。日本国憲法の平和主義の立場からは、戦争が避けられない条件を考えること自体に抵抗があると言えましょう。しかし、戦争を避けるためには、避けられない条件や、戦争が起こる条件を冷静に考える必要があります。どのような状況であれば武力が国際社会で容認されるのか、戦争の実態と可能性を考えます。戦争が行われる条件を知らないと、戦争を防ぐ論争に加われないといえます。 |
○広島市教育委員会 『広島市立学校 平和教育プログラム指導資料』 2013 |
広島市教育委員会は2013年度より、広島市立の全小中高等学校で、平和教育プログラムを実施することとなりました。発達段階別に学習目標を立て、教科や道徳や特別活動の時間を利用して、各学年で3時間のユニットを構成する平和学習を計画しています。各学校で用いられるテキストとして、広島市教育委員会は小学校から高等学校までを4段階に分け、『平和教育ノート』計4冊を編集し、市内の市立学校に通う児童生徒に配布しました。 |
○TBSテレビ「NEWS23」取材班編『綾瀬はるか「戦争」を聞く』/『綾瀬はるか「戦争」を聞くU』岩波ジュニア新書、2013/2016 | 広島・長崎の被爆者にとって綾瀬はるかは孫の年齢。祖父母に接するように、自然な感じで昔の戦争の話を聞いており、その会話では原爆の悲惨さ、戦争のむごさが伝えられています。綾瀬は、戦争体験は伝えておかなければならない大切な記憶であり、語り継ぐことはきっと何かの役に立つ・・・、と考えます。読者である少年少女にとって、綾瀬自身が戦争体験の伝承者のモデルとなっている、といえます。広島・長崎平和学習の事前学習として活用する学校もあります。
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○吉田裕『日本軍兵士:アジア・太平洋戦争の現実』中公新書、2017 | 兵士の目線から、特に1944年の「敗色濃厚になった時期」以降のアジア・太平洋戦争の実態を追います。戦死した兵士たちのほとんどが戦闘中の死ではなく、戦病死や餓死だったようです。また、30万人を超えた撃沈による海没死、戦場での自殺と「処置」、特攻、体力が劣悪化した補充兵について語られます。若い教師にとって、日本兵たちが偏った軍事思想の下で凄惨な体験を強いられた現実を知り、戦争の悲惨さを身近に感じるための書だといえます。 |
○平和教育学研究会『平和教育学事典』2017、Web版 |
平和教育学は、平和教育の実践と理論について研究し、平和教育実践を理論面から支援するため、学問的にわかったこと(知見)を整理することをめざしています。学校で平和教育を行う教員は学問的アプローチにより、自己の実践を学術的な視点から捉え直し、政治的であるとの偏向批判をうけることが少なくなり、創造的に実践を深めることができるのではないでしょうか。平和教育を実践しようとする学校教員にとって、事典の21の項目の中から関心がある項目を読んでもらえます。
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○大石学監修『戦争体験を「語り」・「継ぐ」 広島・長崎・沖縄 次世代型の平和教育』学研、2018 | 小学校や中学校、各地の資料館(学芸員)だけでなく、ボランティア、俳優、落語家などによる戦争や平和をテーマにした活動を紹介しています。これからの世代がどうしたら戦争体験を語り継げるのか、様々な活動の中にヒントを探し、平和を次世代へつないでいくためのアイデアがあります。戦争を体験していない世代がどう語り継いでいくのか、実際に取り組まれている人の体験談は、学校教員にとっても戦争体験継承のモデルとなります。
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○千々和泰明『戦争はいかに終結したか:二度の大戦からベトナム、イラクまで』中公新書、2021 | 戦争をしている両者のうちで〈優勢にある側〉に、「将来の危険」と「現在の犠牲」のどちらを選ぶかの選択権があります。戦争終結の形が、両者の間にある「紛争の根本的解決」をめざすのか、あるいは「妥協的和平」にとどまるかで〈優勢側〉は揺れます。〈優勢にある側〉が、将来の危険を除去しようとすれば紛争の根本的解決を目指すことになり、現在の犠牲を耐えがたいと判断すれば妥協的和平に向かいます。ウクライナ戦争を含め、世界史において終わらない戦争はなく、「戦争の終わらせ方」の出口戦略を視野に入れた戦争についての教養を深める本です。
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○『未来をつくる!あたらしい平和学習 全5巻』岩崎書店、2022 (図鑑 小学校高学年以上) |
平和教育の目的を平和社会の形成者を育てること、と規定しています。図鑑の分冊名は、@平和学習をはじめよう、A文学・芸術でふれあう平和学習、Bまちに出て平和学習、C修学旅行での平和学習、D平和のための国際連合。これは、戦争が無いだけが「平和」ではなく、今の子どもにとって何が「平和」なのかを、教師と子どもが一緒に考えるシリーズです。平和学習で用いられる資料や、事前学習で調べられるHPなどの紹介、平和学習の訪問に適した資料館の紹介があり、実践的な平和学習のハウツー本ですが、高価なので学校図書室に備えてほしい本です。
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戦争体験をもたない教師が平和教育をするには、まず教師自身が戦争のことをよく知り、平和について考える姿勢をもつことが大切です。その上で、学校現場での実践例を参考にして自分なりのやり方をこころみてください。 ここでは、この本を読めば戦争の醜さがわかる、平和への思いが強まる、平和教育をしようかなと思う、そんな本を紹介します。(発行順) |
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○山代巴 編『この世界の片隅で』岩波新書、2017 復刻 | 初版は1965年です。原爆で壊滅した広島に出来たスラム街から始まるこの本には、朝鮮から来た人たち、被差別部落に住む人たち、胎内被曝で障がいを持つ人たち、原爆孤児、一人親家庭、さらには当時アメリカ領だった沖縄の被爆者と、原爆の被害者の中でもより弱い立場の人たちに寄り添った文章が綴られています。大きな悪として原爆や戦争を描くというより、普通の人の普通の暮らしを通してあたりまえの生活やささやかな幸せがどうなるのかを描いているところは、よく似た題名の漫画・アニメ映画『この世界の片隅に』と通じるものがあります。 |
○ダニー・ネフセタイ『国のために死ぬのはすばらしい? イスラエルからきたユダヤ人家具作家の平和論』高文研、2016 | イスラエル出身で日本に住む著者だからこそ、書くことができた本です。ホロコーストの被害者としての歴史をもち、パレスチナ問題の当事者であるイスラエルで育まれた視点を持って、平和と脱原発を訴える後半に学ぶべきことはたくさんあります。けれどそれよりも、イスラエルについて語る前半が、日本の私たちにはとても参考になります。イスラエル出身の著者が自分の半生を語るなかで説明されるパレスチナ問題は、とてもわかりやすいです。 |
○ダニー・ネフセタイ『国のために死ぬのはすばらしい? イスラエルからきたユダヤ人家具作家の平和論』高文研、2016 | アメリカで生まれ育ち、日本で結婚して日本語で詩や文を書く人が書いた、戦争体験者からの聞き取りの本です。その体験は勤労動員、日系移民、疎開、引き揚げ、空襲、玉砕の戦場、沖縄戦、原爆、戦後の占領などさまざまで、加害と被害の二分法ではなく、多様な観点から戦争体験を聞きだしています。もと「敵国」の詩人だからこその新鮮な発見がいくつもあります。知らなかったというより、思いつかなかったことがいくつも見つかります。 |
○一ノ瀬俊也『昭和戦争史講義 ジブリ作品から歴史を学ぶ』人文書院、2018 | 講義録形式で語り口調の文体なので、読みやすい本です。ジブリアニメを歴史として受け止めているのではなく、ジブリの作品に描かれたことを、歴史学の視点で説明している本です。元の資料は明示されていて、ジブリの作品世界を、歴史に基づく部分、制作者の解釈に基づく部分、制作者の思いを表している部分と区別して見られるようになっています。戦時下であっても生活困窮や不平不満だけだったわけではなく、ある時期までの人びとは戦争景気のもとで娯楽を享受してもいたという指摘は、平和教育を進めるうえでも留意すべき点です。 |
○堀川惠子『原爆供養塔 忘れられた遺骨の70年』文春文庫、2018 | 広島の平和公園の北のはずれに、原爆供養塔はあります。土まんじゅうのような、目立たない存在。この本は、その原爆供養塔にスポットをあて、そこにまつわる生者と死者の物語を紡いだノンフィクションです。原爆供養塔のことは知っていたけど、ほんとうにはわかっていなかったんだということを思い知らされる本です。光村図書出版の小学5年生の国語教科書教材「たずねびと」を指導するなら、ぜひ読んでおきたい本です。 |
○城戸久枝『あの戦争から遠く離れて 私につながる歴史をたどる旅』新潮文庫、2018 | 「日本生まれの残留孤児二世」である著者が、父の足跡をたどるノンフィクション。第1部の「父の時代」は、『大地の子』を想起させる実話。ちがうところは、自力で帰国の道を開いたところ。歴史や政治に翻弄されるだけではない強さがあります。第2部は著者自身のあゆみ。中国に留学し、父の関係者と交わる中で意識を高め、中国残留孤児全体の問題や、「満州国」の問題についても考えていきます。非体験者が書いている本なので、説明が丁寧でとてもわかりやすく、予備知識がなくても読める本です。 |
○吉浜忍 編『沖縄戦を知る事典 非体験世代が語り継ぐ』吉川弘文館、2019 | 沖縄戦を体験していない世代の若い研究者や実践者が結集して編んだ事典です。中部・南部の激戦やガマ、学徒隊、「集団死」などの従来語られてきた沖縄戦の様相だけでなく、「慰安婦」、朝鮮人軍夫、障がい者、移民、ハンセン病者など、弱者を含む幅広い内容の項目と、コラムや、読書、博物館・祈念館、戦跡コースなどのガイドまでついた、「事典」の名にふさわしい沖縄戦の総合ガイドです。事典という体裁ですが順番に読んでいくと沖縄戦が総合的に見えてくるし、知りたい項目を開いて読むと、そのことがらについて詳しく知ることが出来ます。平和を学びたい人、平和教育をしたい人、沖縄について考えたい人、に最適な1冊です。 |
○三上智恵『証言沖縄スパイ戦史』集英社新書、2020 | 749ページまであって、普通の新書本なら3冊分ほどの厚さです。最初の1冊分ぐらいは、沖縄の少年ゲリラ兵の証言。2冊目にあたるのは、本土に目を向けて、その上官たちの姿にも迫る部分。それだけでもすごい熱量であり、膨大な情報量ですが、最後に、資料を基にした考察があります。短いけれど、この部分が、この本の要になっています。沖縄戦を掘り下げるにとどまらず、戦争の姿に迫っています。やはり、沖縄を考えることはこの国の平和を考えることになります。 |
○志賀賢治『広島平和記念資料館は問いかける』岩波新書、2020 | 2019年に開館以来最大規模のリニューアルをおこなった広島平和記念資料館の前館長が著者です。原爆投下直後から一人被爆資料の収集を重ねた初代館長の思いをふり返り、被爆者の一層の高齢化が進む中で、「あの日」を記録し伝え続ける「記憶の博物館」の軌跡と課題を語ります。来館者に、考え、想像し、議論する場を提供することが資料館の使命であると訴えます。資料館を見学する前でも後でもいいから読んでおきたい本です。 |
○広中一成『後期日中戦争 太平洋戦争下の中国戦線』角川新書、2021 | 「後期日中戦争」というのは斬新なとらえ方です。盧溝橋事件や南京事件、重慶爆撃などはよく語られますが、太平洋戦争開戦後、中国戦線で日本軍がどのような作戦を展開していたのか、これまではあまり目を向けられていません。主要作戦に従軍し続けた名古屋第三師団の軌跡から、泥沼の戦いとなった日中戦争の戦場の現実を描きます。これまで戦記ではあまり書かれてこなかった細菌戦、毒ガス戦のようすも詳しく述べられています。 |
○デイビッド=マッキー『六にんの男たち』偕成社、1975 | (絵本 小学校低学年から大人まで テキストとして・読み聞かせ) 「へいわにはたらいてくらす」ことを求めて歩き続けていた男たちは、ようやくよく肥えた土地を見つけ、定住してせっせと働きました。貯えができた男たちは泥棒が心配で見張りの塔を建て、番兵を雇い……。やがて大きな戦いが起きてしまいます。生き残ったのはたった6人の男たちだけでした。戦争が起きるしくみとそれを防ぐにはどうしたらいいかを考えさせられる、寓話の絵本です。どの学年にも適しています。 |
○奥田継夫・文 梶山俊夫・絵『お母ちゃんお母ちゃーんむかえにきて』小峰書店、1985 | (絵本 小学校低学年以上 テキストとして・読み聞かせ) 戦時下の1944年より、国民学校3年生から6年生までの児童に対して学童集団疎開が始まりました。遠足気分で出かけた子どもも、すぐに厳しい現実に気づきます。学童疎開は、家族から離れる寂しさだけでなく、厳しい食料事情や陰惨ないじめのために、子どもにとっての戦場ともいえる苛酷な場でした。体験に基づいて疎開生活を詳細に綴った長篇『ボクちゃんの戦場』のエッセンスを、印象的な絵柄で絵本化したものです。 |
○大門高子(文)、松永禎郎(絵)『むらさき花だいこん』新日本出版社、 1999 |
(絵本 小学校中学年以上 テキストとして・読み聞かせ) 可憐な花の絵の表紙、彩り豊かなのどかな風景の絵。その間に暗い色調の、軍隊の行進や戦場の絵が挿入されます。日中戦争のおりに南京から種が持ち帰られたという紫金草のものがたりを、侵略・加害の側面をしっかり見すえて描いています。凄惨な描写はありませんが、遺棄毒ガスの問題にも触れ、加害行為を冷静に的確に書いています。おわびをしたいという気持ちで戦後に広められた「平和の花」のとりくみも描かれ、読み聞かせの題材としても、総合的な広がりを持つ平和学習の起点としても、有効な教材になる絵本です。 |
○天野夏美・文 はまのゆか・絵『いわたくんちのおばあちゃん』主婦の友社、2006 | (絵本 小学校中学年以上 テキストとして・読み聞かせ) 広島の爆心地に最も近い学校の本川小学校で、平和学習のゲストティーチャーとして「いわたくんのお母さん」が母の被爆体験を語ります。母ちづこさんは、原爆で家族5人全員を奪われました。被爆直前に撮った家族写真を見ることができたのはちづこさん唯一人でした。ちづこさんは今でも家族と一緒に写真を撮られるのをいやがります。孫の「いわたくん」は2005年の平和記念式典(広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式)で小学生代表として「こども代表平和への誓い」を読み上げました。 |
○安田夏菜『あの日とおなじ空』文研出版、2014 | (小学校中学年以上 テキストとして) 現代の東京の小学生ダイキがひいばあちゃんの暮らす沖縄に行き、現実と非現実(沖縄戦)の世界をいききするファンタジーです。沖縄戦を三種類の描き方で書いています。読者はひいばあちゃんの語りとしての戦争、ダイキが客観的に見る戦争、ダイキが入り込む戦争、と三種類の戦争に出合うことで、戦争というものをより立体的にとらえることができます。基本的な調査・考証が行き届いていて、沖縄戦のポイントも的確におさえている、子どもに安心して読ませることのできる作品ですし、自分だったらどうするか考える授業に使うことのできる場面がいくつもあります。 |
○松元ヒロ(作)武田美穂(絵)『憲法くん』講談社、2016 | (絵本 小学校中学年から大人まで テキストとして・読み聞かせ) 芸人・松元ヒロが<憲法くん>になって語るひとり芝居をもとにした絵本です。「ともだちみたいに「憲法くん」とよんでください。」と語りかけ、「わたしをどうするかは、みなさんが決めることです。」「わたしを、みなさんに託しましたよ。」と結ぶこの絵本は、日本国憲法の意義と価値をわかりやすく伝えていて、憲法について考えるきっかけになります。一人芝居では、全部引用されている憲法前文を一気に語るところが圧巻です。読み聞かせをするなら、読み手にとっても前文をしっかり読むいい機会になるでしょう。 |
○小手鞠るい『ある晴れた夏の朝』偕成社、2018 | (小学校高学年以上 テキストとして) 日本では「絶対悪」とされる原爆。さまざまなルーツをもつアメリカの8人の高校生が、原爆投下の是非について、原爆肯定派と否定派に分かれてディベートをする、という話です。主人公である日系アメリカ人のメイが参加するディベートを通じて、さまざまな立場・角度から原爆について考え・学びます。読者もメイとともに迷い、悩み、発見することになります。勝敗にこだわる下手なディベートではなく、相手の意見を尊重し、感情を抑えて冷静に分析するというディベート本来のプラス面がいかされた作品です。 |
○谷川俊太郎(文)、Noritake(絵)『へいわとせんそう』ブロンズ新社、2019 | (絵本 小学校低学年から大人まで テキストとして・読み聞かせ) 見開きの画面の左右で「へいわの〜」と「せんそうの〜」を対比する構成です。最初は「へいわのワタシ」と「せんそうのワタシ」で、「チチ」「ハハ」「かぞく」などとつづき、途中から「みかたのかお」、「てきのかお」などと、敵も味方も同じ人間だと示すページになります。短い言葉とシンプルなイラストが、小さい子から大人まで、それぞれの想像力を喚起します。 |
○山下ますみ(文)、ささきみお(絵)『またあしたあそぼうね』新日本出版社、2019 | (絵本 小学校低学年から 読み聞かせ) 八歳のはるよちゃんは近所のまさおちゃんやひさよちゃんと遊んで、「またあしたあそぼうね」と手をふって別れました。でも、その夜、空襲があり……。東京大空襲・戦災資料センターで証言活動をする二瓶治代さんは、空襲の猛火の中、大人の体に埋もれて奇跡的に生き残りました。再会できた家族は無事でしたが、前の日に遊んだ友達はみんな死んでしまいました。この絵本はやさしいけれど迫力のある絵と語り口で「またあした」がなかった体験を伝えます。 |
○鈴木まもる『戦争をやめた人たち 1914年のクリスマス休戦』あすなろ書房、2022 | (絵本 小学校低学年から大人まで テキストとして・読み聞かせ) 第一次世界大戦での実話をもとにした絵本。塹壕戦で対峙するイギリスとドイツの兵士たちが、共通のクリスマスソングをきっかけに交流を始め、うちとけあって、戦いをやめました。戦争はかんたんにやめられるものではないというのは、あとがきで作者自身が書いているとおりです。でもそれに絶望するのではなく、そのつづきに書いている「ほかの命のことを思う想像力と行動する勇気があれば、戦争をやめることはできる」という一節を、子どもたちの心に刻んでもらいたいですね。 |